2015-2016年度の例会

○2015〜2016年度 総会および10月シンポジウム
日時:2016年10月22日(土)13:00~18:00
会場:明治大学 駿河台キャンパス 研究棟2階 第9会議室
1. 会員総会   13:00~13:30
2. シンポジウム 14:00~18:00
(1)タイトル 「『科学』と『人文学』の対話?―歴史の中の医学」
(2)報告者
開会挨拶・趣旨説明 磯部裕幸(現代史研究会 運営委員長)
報告① 土屋悠子氏(中央大学 客員研究員)
  「日韓の医療一元化社会と医療二元化社会―日本と韓国の近代医療制度史を比較して」
報告② 福士由紀氏(首都大学東京)
   「結核と近代華北社会」
報告③ 高林陽展氏(清泉女子大学)
  「20世紀英米圏における医学史のヒストリオグラフィと今日の課題」
報告④ 梅原秀元氏(慶應義塾大学 非常勤講師)
  「ドイツにおける医学史研究」
コメント 脇村孝平氏(大阪市立大学)
報告概要:
医学を含めた自然科学の「歴史性」や「社会性」を問う研究は、20世紀後半のいわゆる「STS(科学技術社会論)」や「ポストコロニアリズム研究」の影響を受ける形で本格的に始まり、近年でも例えばナチ・ドイツにおける医学のあり方や、19世紀の「帝国医療」と21世紀の「国際医療」との関係性を問う研究など、世界中で成果が続々と発表されている。
このような動向を見る限り、「歴史の中の医学」あるいは「医学の歴史性」というテーマは、歴史研究においてそれなりに地歩を固めたといえるだろう。
その一方で「医学」を歴史学の中で扱うということ、あるいは専門の医学教育を受けていない「普通の歴史家」が医学の問題を論じるということには、どのような意味があり、またどのような課題があるのか。このことについては、まだ議論の余地があるようにも思える。
本シンポジウムにおいては、「医学と社会」というテーマで韓国・中国・イギリス・ドイツ・インドなどの事例研究に携わってきた研究者の報告を通して、「科学と人文学」の接点について考える機会としたい。あわせてこのテーマが持つグローバルな性格や、新しい「世界史」の可能性についても議論を深めることができればと考えている。


○2015〜2016年度 7月例会
日時:2016年7月31日(日)14:00~
会場:立正大学 品川キャンパス(大崎) 5号館 52C教室
報告者:小澤 一郎氏(上智大学アジア文化研究所)
報告タイトル:近代イランにおける「非公式」武器移転の展開とインパクト:現代の武器移転との比較の視点から
コメンテータ:工藤 晶人氏(学習院女子大学)
報告概要:
19世紀後半、火器の製造・使用における「近代」の到来とともに、戦争による武器拡散、密輸といった形でイランへの「非公式」武器移転が活発化する。本報告で1870年代から第1次大戦期までの時期についてその展開を跡付けるとともに、その結果としての現地社会の武装化がイランの歴史的展開に与えた影響を明らかにする。また、その中で重要と思われるいくつかの要素について、現代の同様の現象との比較を行い、共通点・相違点を浮き彫りにすることを試みる。近代フランス・ユダヤ人史における彼の位置づけを再検討することにある。


○2015〜2016年度 6月例会
日時:2016年6月18日(土)14:30より
会場:明治大学御茶ノ水キャンパス・猿楽町第二校舎3階・史学地理学科共同演習室
報告者:山本耕氏(明治大学大学院文学研究科博士後期課程)
報告タイトル:「マスメディアを通じたフランス・ユダヤ人コミュニティ再編の試み――1930年代におけるユダヤ系フランス人レモン・ラウル・ランベールの記名記事分析」
コメンテータ:加藤克夫氏(島根大学名誉教授)
報告概要:
1930年代におけるフランスのユダヤ人コミュニティは、19世紀から続く移民の流入によって、多様な政治的、経済的、社会的そして文化的背景を有する人々によって構成されていた。この時代に、彼らは反ユダヤ主義の高揚をはじめとした諸問題に直面し、その対応に苦慮していたのである。本報告は、ユダヤ系フランス人指導者のひとりであったレモン・ラウル・ランベール (Raymond-Raoul Lambert, 1894-1943) が、新聞を通じてユダヤ人コミュニティに発していた主張を分析する。その目的は、彼の主張が生み出されてきた時代背景やコミュニティの状況を明らかにし、近代フランス・ユダヤ人史における彼の位置づけを再検討することにある。


○2015〜2016年度 5月例会
日時:2016年5月15日(日)13:20-
会場:法政大学市ヶ谷キャンパス ボアソナードタワー24階 人間環境学部会議室室
報告者:松岡昌和氏(秀明大学非常勤講師)
報告タイトル:「日本占領下シンガポールにおける文化政策」
コメンテータ:瀧下彩子氏(東洋文庫研究員)
報告概要:
本報告では、1942年2月より1945年9月まで日本陸軍によって軍政が敷かれ、「昭南島」と改称された日本占領下シンガポールにおける文化政策について論じる。本報告の目的は、第一義的には3年半に渡る日本軍の統治の中でどのような文化政策が実施されたのかを歴史資料から明らかにしていくことにある。その上で、日本が戦時期に軍政を敷いた東南アジア地域、南方占領地における文化政策の問題点を指摘するとともに、南方占領地での文化政策の限界やそこで動員された日本人たちの東南アジア観についても考察を行う。まず、日本内地での南方文化工作について、音楽と映画を取り上げて論じ、さらに日本占領下シンガポールにおけるメディア状況を概観することで、議論全体の前提としたい。その上で、日本占領下シンガポールで提供された文化プログラムについて、音楽・映画・昔話を取り上げて、実際の「大東亜文化」建設の限界を指摘したい。続いて、文学者・漫画家といった占領地で文化政策に携わった従軍「文化人」の活動に焦点を当て、かれらの現地社会や戦争との向き合い方を考察する。
以上の議論から、戦時期日本の占領地における文化政策のあり方とその限界について整理する。


○2015〜2016年度 4月例会
日時:2016年4月23日(土)14:00−18:00
会場:立正大学品川キャンパス1021教室
報告者:秋山千恵氏(明治大学非常勤講師)
報告タイトル:ヴァイマル期ドイツの映画と社会民主党―社会民主党の映画政策をめぐって―
コメンテータ:川手圭一氏(東京学芸大学)
報告概要:
ドイツにおいてラジオや映画などの大衆文化が大きく展開するのはヴァイマル時代である。 この新しいメディアは、聴覚や視覚を媒体にして商品化された文化産業である。
本報告では、社会民主党と映画との関係を考える。 社会民主党は結党以来、文字媒体を中心にその基盤を確立し、労働者文化運動を展開してきた。 文化政策の指導層は、その運動を市民層の「教養」にならって労働者の文化を「高尚化」することをねらいとしてきた。 このような社会民主党が映画産業の隆盛に直面して、映画という大衆文化にどのように対応したのかを明らかにしたい。 その際に、社会民主党の文化政策指導層の芸術・文化観と映画をめぐる議論、実際の映画活動、党機関紙『前進』の映画評論、この三点を中心に検討する。 ヴァイマルの時代状況のもとで映画をとおして社会民主党の文化運動がもった可能性や葛藤を検討することで、ひいては政治と文化について考える一助としたい。


○2015〜2016年度 3月例会
日時:2016年3月6日(日)13:00−17:00
会場:慶應義塾大学三田キャンパス大学院棟313教室
報告者:
小澤実(立教大学文学部准教授) はじめに
松沢裕作(慶応義塾大学経済学部准教授) 『近代日本のヒストリオグラフィ―』の意図と達成
コメンテーター:菊地重仁(青山学院大学文学部准教授) 近代日本におけるヨーロッパ中世研究:ドイツ歴史学界との関わりから
小山哲(京都大学大学院文学研究科教授) 「史学史」の線を引き直す――ヒストリオグラフィーにおける「近代」をどう捉えるか
岸本美緒(お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授) 近代東アジアの歴史叙述における「正史」
概要:
松沢裕作編『近代日本におけるヒストリオグラフィー』(山川出版社、2015)が刊行された。「歴史をいかに叙述すべきか」を模索していた時代、すなわち近代歴史学の成立とその知見に基づく歴史記述の誕生に焦点を絞った日本初の論集である。本シンポジウムでは、この記念碑的な論集を、それぞれの分野における学知のありかたに関心を持つ西洋中世史・古文書学、西洋近代史、中国史の専門家が読み解くことにより、交流史並びに比較史的観点から、日本における歴史学と歴史記述の意義を明らかにしたい。編者による論点開示、3人の評者によるコメントののち、8人の執筆者を含めたフロアを交え討議を行う。


○2015〜2016年度 2月例会
日時:2016年2月15日(月)14:00~17:00
会場:共立女子大学 神田・一ツ橋キャンパス 本館11階1208講義室
報告者:ゲルト・クルマイヒ(Gerd Krumeich)(デュッセルドルフ大学名誉教授)
:Von der Kriegsschulddebatte zur Internationalisierung? Ein Rück- und Ausblick auf die Forschungen zum Ersten Weltkrieg
(戦争責任論争から国際化へ?第一次世界大戦研究の回顧と展望)
コメンテーター:鍋谷郁太郎(東海大学)
司会:西山暁義(共立女子大学)
報告概要:
歴史研究というものはそもそも国際的であり、実際特定の歴史テーマについて多くの国の研究者による協力や競合が存在する。 しかしながら、第一次世界大戦研究の国際化の方向性については、ここ20年間で問題を組織化し、決定的に進化させてきた2つの新たなアプローチが存在する。それはまず大戦研究センター(フランス・ソンム県ペロンヌ)によって提起された、とりわけ心性史にかんする比較史研究の問題である。 ここでは「(開戦時の)八月の体験」、兵士の戦闘動機、戦時占領、残虐行為などの問題が新たに提起され、議論されてきた。このきわめて生産的であったアプローチは、ここ数年、そもそも一国史的な視点ではなく、国民間の相違よりもそれを越えたあらゆる種類の戦争体験の共通点を重視するトランスナショナルな歴史を求める要求によって上掛けされるようになっている。 本講演において、私はこの両方の方法論的なアプローチを批判的に検討し、いくつかの具体的な例をもとに比較史研究の最も重要な成果を提示することにしたい。その際、とくに、最近クリストファー・クラークらによって新たに提起された「戦争責任」をめぐる議論の歴史について着目することにしたい。


○2015〜2016年度 1月例会
日時:2016年1月24日(日)14:00~18:00
会場:学習院女子大学7号館734教室
報告者:門間 卓也氏(東京大学大学院)
報告タイトル:クロアチア独立国における「ウスタシャ精神」の表象
-『スプレムノスト』紙におけるプロパガンダの分析を中心に-
コメンテーター:清水明子氏(慶応義塾大学)/新谷崇氏(東京外国語大学)
報告概要:クロアチア独立国(1941-45)で政治運営を担ったウスタシャは、自らの超国家主義に則し、あらためてクロアチア民族の統合と刷新を図るため、「ウスタシャ精神」の確立と浸透に様々な方策で取り組むことになった。但しナチ・ドイツの傀儡国家として強力な統治機構やイデオローグが存在しなかった独立国内では、「ウスタシャ精神」の言説的表象も、地政学的概念としての「東」「西」の再考、ムスリム文化の包摂、エリート層の形成、それらを含めたクロアチア民族としてのネイション像の在り方を巡り、一様でない姿を現すことになる。本報告では、そうした「ウスタシャ」のイデオロギーの多義性又は曖昧性について指摘すると共に、主要なプロパガンダ媒体の一つである週刊紙『スプレムノスト Spremnost』に掲載された種々のテクストを史料として、「ウスタシャ精神」が構築又は変容される過程について考察する。


○2015〜2016年度 12月例会
日時:2015年12月13日(日)14:00
会場:立正大学 品川キャンパス(大崎) 5号館 52C教室
報告者:芦部彰氏(東京大学大学院 人文社会系研究科 研究員)
報告タイトル:「戦後西ドイツの社会政策とカトリシズム-1950年代におけるキリスト教民主同盟の住宅政策構想に注目して」
コメンテータ:中野智世氏(成城大学)
報告概要:
1950年代の西ドイツにおいて、住宅不足の解決は第二次世界大戦後の復興を進めるうえで重要な課題であった。それと同時に、住宅政策には、冷戦の東西対立という同時代の分脈の中で、西ドイツが理想とする人間像や社会像を体現する住宅を提示し、東側との違いと東側に対する優越性を示すことも求められた。こうした中で、キリスト教民主同盟(CDU)は、1950年の第一次住宅建設法によって開始された「社会的住宅建設」内での、戸建て持ち家住宅建設の優先を主張し、1956年の第二次住宅建設法でその主張を貫徹した。CDUはカトリック、プロテスタントの両宗派を包摂しようとする超宗派政党であるが、この政策の推進に大きな役割を果たしたのは、カトリックの政治家、知識人、実践家であった。本報告では、彼らが提示した住宅はどのような理念に立脚していたのか、カトリック社会教義の原則的な内容に即して考察し、戦後西ドイツにおける社会政策とカトリシズムの関係の一端を明らかにしたい。